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執筆者の写真petomoni

petomoni(ペトモニ)寄付取材 Vol.4

更新日:2022年8月30日

一般財団法人クリステル・ヴィ・アンサンブル

信頼されるプラットフォームから

確かな発信と支援を広げる


2014年に設立され、滝川クリステルさんが代表を務める「一般財団法人クリステル・ヴィ・アンサンブル」では、


① 「アニマルウェルフェアの向上と犬猫の殺処分ゼロを目指す」

Project Zero(プロジェクト ゼロ)


② 「生態系の頂点に立つ絶滅危惧種を守り生物多様性保全に取り組む団体を支援する」

Project Red(プロジェクト レッド)


の2本を柱に、情報発信や啓発活動、セミナーやキャンペーンなどさまざまな活動を継続的に行っている。


新型コロナウイルスの影響下でも保護団体の支援にいち早く動くなど、力強い活動を続ける様子に感銘を受けた代表の髙野とpetomoniスタッフ天野は、Project Zeroの取り組みについて話を聞くため、本部のある南青山へ向かった。


事務局長の堀江雄太(ほりえゆうた)さんと、この春から入ったばかりという鈴木恵奈(すずきえな)さんが笑顔で迎えてくれた。


保護犬猫とつながる仕掛け「PANEL FOR LIFE」と フォスター育成プログラム


髙野: (テーブルに置かれた紅茶の缶を手に)こちらのお茶缶は、かわいいですね。保護犬猫たちとつながることができる「PANEL FOR LIFE」の商品なんですね。


堀江さん(以下、敬称略): そうなんです。PANEL FOR LIFEは、犬や猫の等身大パネルにQRコード付きの帽子をかぶせ、そこから保護犬猫の情報を見ることができるというプロジェクトで、さまざまなお店や保護施設などに置いていただいています。

中には商品とコラボレーションしたケースもあって、こちらの紅茶もその展開の一つです。猫のマークで有名な紅茶メーカーさんとの企画なのですが、おかげさまで大変ご好評いただきました。

等身大パネルも商品コラボも、保護犬猫を家族に迎えていただくためのきっかけ作りとして続けています。

こちらにあるマスクもコラボ商品なのですが、2019年はじめの販売の段階ではまさかマスクがこれほど必要になる世の中が来るとは思いもしませんでした。


PANEL FOR LIFEコラボ商品を見ながら話が弾む (左から時計回りに堀江さん、鈴木さん、天野、髙野)


天野: 本当に大変な世の中になってしまいました。それにしても、身近なものから保護犬猫たちにつながることができるというのは良いですね。クリステル・ヴィ・アンサンブルさんは、2014年から活動を始められて、もう7年になるのですね。


堀江: はい、立ち上げから掲げてきた「2020年を目標にアニマルウェルフェアにのっとった犬猫の殺処分をゼロに」という一つの目標期限が過ぎたので、それを引き継ぎつつ、ポスト2020として新しい取り組みを始めようとしているところです。


髙野: この状況でも立ち止まらないのが、すばらしいですね。コロナ禍ではできないことも多いと思いますが、どのような活動を進めていらっしゃるのですか。


堀江: 立ち上げ当初から、「フォスターアカデミー(Foster Academy)」を通じて動物ボランティアの育成を行ってきました。当時は殺処分の問題が大きく取り上げられ始めた時期で、急に犬猫の保護件数が増え、保護団体さんはひっ迫した状況でした。保護された犬猫を一時的に預かるフォスターの数がボランティアの中でも絶対的に足りていなかったので、私たちは動物保護団体などと連携して、フォスターを増やすための学びの場「フォスターアカデミー」の開催を決め、継続してきました。

2016年からは、フォスターの役割や重要性、動物たちを取り巻く現状について知っていただくためのセミナーも開始して、約2,200人の方に受講いただきました。


髙野: すばらしい数ですね。


堀江: より実践的な知識を付けたい方のための「ベーシックプログラム」(全6回)では、座学から現場へも教室を広げ、さまざまな体験から学ぶことができます。現在はコロナのため現場に行くのは難しいので、オンラインでの連続講座を開講しています。これまでに200人以上の方が修了の認定証を手にし、その後団体を設立したり、講師になって活躍したりしている方もいるのも嬉しい限りです。


髙野: その後の活動へと広がりがあるのが良いですね。認定を出してからが難しい、ということもあるでしょうから。


堀江: おっしゃる通りです。講座を受けても活躍の場が見つけられなかったり、団体によってやり方や考え方が違うために、学んだスキルを発揮できなかったりすることもあります。そこで、プログラム自体を動物病院併設の保護団体さんなどと一緒に作成して、終了後そのままボランティアに入れたり、関連の場所で活躍できるようにしたりするなど、より良い形を作れないかを探っているところです。



保護犬猫の現状を知ってもらいたい 「ウェルカムペットキャンペーン」


髙野: 「ウェルカムペットキャンペーン」も拝読しましたが、大変良い冊子ですね。


堀江: ありがとうございます。ネットが主流の時代になっても、まだ(リアルな)モノが必要なことがあると感じています。企業の協賛にも支えられ、年間10万部を作成して無料でお配りしています。

これまで、保護犬猫について知ってもらうための情報、引き取る方法、マッチング、離乳前の子猫を見つけた時のHow to、高齢者でも預かることができる仕組みなどについて多角的に取り上げ、現在第4版まで出ています。


財団の公式資料と「WELCOM PET CAMPAIGN」(中央)


髙野: この冊子のような“啓発”というのは、難しいと思いますが大切なことですね。


堀江: そうですね。私たちは自分たちの在り方を「中間支援団体」と考えていますから、直接の支援というより、こうした冊子などで考えを広めていくこと、議論を深めていくことを積極的に行ってきました。


髙野: 「殺処分ゼロ」への取り組みも進みましたね。


堀江: はい。2014年の財団設立時には約12万8,000頭(平成25年度環境省)あった殺処分数が2020年には約3万2,000頭(令和元年度環境省)にまで減りました。


殺処分には

 ①(治癒の見込みがない病気や攻撃性などのために)譲渡することが適切でないケース

 ②愛玩動物、伴侶動物として家庭で飼育できる動物の殺処分(適切な譲渡先が見つからないなどの理由による)

 ③引き取り後の死亡


という3つの分類があります。

それぞれの処分をどの種類に数えるかは、行政によって定義が異なることもあり、団体さんによって考え方はさまざまです。私たちは「アニマルウェルフェアの向上と犬猫の殺処分ゼロ」を掲げていますので、まず②を確実にゼロに近づけつつ、①、③のあり方についても議論を深めたいと思っています。

保護犬・保護猫を家族に迎える選択をしてくださる方が増えて②をゼロにすることが出来れば、①、③の犬猫に対して自治体の職員の方がより手厚いケアを行えるようになります。権限を持つ自治体だからこそ行える、動物取扱業者への指導や多頭飼育崩壊を防ぐためのアドバイスなどに時間と人材をしっかり充てられるので、殺処分される頭数を減らすことができると考えています。

さらに踏み込んで、例えば②以外のケースにおいて、苦痛を和らげるための安楽殺の処置をやむを得ないとするなら、その点の議論をもっと深め、考えを明確にした方が良いのでは、ということも財団内では話し合いました。


髙野: ドイツでは、犬の殺処分について大変厳しい基準があるようですね。


堀江: その通りです。私たちは2019年に「『アニマルウェルフェアを担保しつつ殺処分をゼロにすること』とは、どんなものなのか」をテーマに、ドイツから「ティアハイム・ベルリン(*1)の方や獣医師の先生をお呼びして、動物の安楽殺についてかなり突っ込んだ議論を行いました。ティアハイムでは倫理委員会を置き、安楽殺を行う際には担当者、獣医師などがチェックリストを用いて協議した上で、本当に必要があるかを厳しく審査しているとのことでした。

私たちもこうした議論を重ねながら、理解を深めていければと思っています。


髙野: 難しい問題ですが、動物福祉に関してより深く話し合っていく段階にきていますよね。クリステル・ヴィ・アンサンブルさんがこの冊子などから啓発して、全国規模で皆さんを牽引するようなことが、今後必要になっていくのではないでしょうか。


堀江: そうですね。「ルーフトップ・オーガニゼーション」という言葉があって、屋根のような存在の団体の下に、中くらいの団体が続き、さらにその下に小さな団体が……というイメージです。日本ではあまり見かけませんが、うちを含めて、他団体さんたちとそういう形を作り出せるといいな、と個人的には思っています。


髙野: 規模もパワーもあるところでないと、屋根にはなれませんから。求められていると思います。


(*1)ヨーロッパ最大規模ともいわれるドイツの動物保護施設(ティアハイム)


コロナ禍での支援


髙野: コロナ禍で行われた、保護団体への支援についても聞かせてください。


堀江: はい。あれは、代表理事の滝川のゴーサインで取りかかったことでした。先ほどもお話しした通り、私たちの二つのプロジェクトのうち、「Project Zero」ではこれまで、各団体さんへの直接的な支援はしていませんでした。

しかし、新型コロナウイルスが広がる中、譲渡会やイベントが開けず、保護団体さんの運営が厳しくなることで犬猫たちのアニマルウェルフェアに影響が出ることも懸念される状況が出てきました。とにかくできることを、と始めたのが、支援プロジェクト「新型コロナウイルス感染症拡大に伴う 犬猫の保護団体への運営維持等対策支援 〜保護犬・保護猫のアニマルウェルフェアを守るために〜」(*2)でした。



天野: あのスピード感には驚きました。


堀江: 2020年の4月上旬にやると決めてから、下旬には大枠が決まり、5月には受け付け開始という速度でした。支援金の総額を2,000万円と設定し、それを役に立つ金額で、できるだけ多くの団体に、と考えた結果、1団体あたり20万円で先着100団体までという形になりました。申請の手続きも簡単にしたかったので、透明性を担保し、チェックする点はしっかりチェックしたうえで、条件や書類もできる限りシンプルにして募りました。用途も聞かせてはいただきましたが、限定はしませんでした。


天野: みなさん、助かったでしょうね。どのように使われるケースが多かったのでしょう。


堀江: やってみて初めてわかったのですが、ほとんどの団体さんが(動物たちへの)医療費に使っておられました。この用途を聞けたことで、また新たに必要な支援が見えたという感じです。


髙野: なるほど。今度は医療に視線が向かったんですね。


堀江: そうなんです。お金を渡して終わりにしてはいけないと思うので、その先も考えていきたいと思っています。中間支援団体として、また主導的な存在としてビジョンを掲げ、信頼されるプラットフォームを作ることが大切だと考えています。人を育て、モノやお金のサポートができ、さらに中立的で確かな情報がある、と思ってもらえないといけませんから。


*2 ) クリステル・ヴィ・アンサンブルHP 2020年5月18日ニュース記事 https://christelfoundation.org/news-blog/news/20200518.html


虐待防止に向けて 「Animal SOSプロジェクト~Save One’s Smile 虐待のない世界~」


髙野: 6月からは、新しいプロジェクトが始まるそうですが。


堀江: はい。動物の虐待防止に関するプロジェクトが始まる予定です。


天野: コロナ禍で動物虐待が増えているという報道もありました。


堀江: ストレスのはけ口として、動物など立場の弱いものに虐待を行うケースもあるのでは、と思っています。2019年の動物愛護管理法の改正で動物虐待が厳罰化され、今年6月からは数値規制が始まるというタイミングもあり、これまでの「Project Zero」に加えて動物虐待を減らすことにも取り組んでいきたいと考えています。


髙野: 動物への虐待というのは、どういったことを指すのでしょうか。


堀江: 動物虐待には2つの種類があり、一つはやってはいけないことをする「積極的虐待」、もう一つはやらなければいけないことをやらない「ネグレクト」です(*3)。どちらも外からの判断が非常に難しいところです。

まずは、虐待と思われるケースがあったら、だれでもすぐに通報できるような仕組みを作ろうとしています。


髙野: 発見の難しさは、人間の場合と同じですね。


堀江: ええ。動物は自分から発信することができませんから、よけいに難しい。自治体や警察がどう連携するのかも考えなくてはいけません。動物の場合は、虐待を見つけたとしても飼い主に「所有権」があって取り上げることができないので、これをどうにかするとなると民法の問題にもなってきます。


髙野: 法律にも関わってくるんですね。


堀江: そうなんです。虐待の恐れがある場合、通報先は自治体の窓口になりますが、その先で関わる自治体の獣医師の方の経験が少なかったり、知識がなかったりすると、適切な対応ができません。法獣医学的な観点で虐待の証拠があるのかを判断しなくてはならない場合もあります。

そこで私たちは、日本獣医生命科学大学で動物虐待対応をされている専門家の先生を通じて、現場で一緒に動物虐待に対応できる行政獣医師を含む獣医師の育成、虐待対応を行う動物虐待専門家への支援を行う予定です。


髙野: 虐待を減らしたいという気持ちで始めても、その先のさらに先の課題が次々に出てきますね……。考えていくと、問題が大きくて動けなくなってしまいそうです。


堀江: すぐに全てが出来上がることはないと思います。自治体の協力も必要ですし、法的権限のない一般の方の対応だけでは難しい分野でもありますから。


天野: 動物愛護管理法の改正ではどういった影響が出てきているのでしょうか。


堀江: 動物愛護管理法の改正では、動物虐待を厳罰化しただけではなく、飼育に関する数値規制も加えられました。アニマルウェルフェアの観点では良いことなのですが、急な改正に対応が追い付かない団体や、廃業を考えるブリーダーの方も増えています。

みんなそれぞれが「殺処分ゼロへ」とうたっていますが、殺処分しない代わりに、保護しきれなくなった動物があふれてしまうような玉突き現象が起きかねません。


髙野: 劣悪な業者が淘汰されるのは良いのですが、善意でやっている小さな団体さんも苦しくなる可能性がありますね。上流から手を打ち、その下がパンクして、また直して……という風に変わっていくのでしょうか。


堀江: そうですね、やらなくてはいけないことは盛りだくさんです。でも早く次の一手を考えていかないと、と思っています。 


髙野: 考えながらも、進んでいかないといけませんね。


堀江: そうですね。petomoniさんもコロナ禍の中、毎月撮影会を続けているのは本当にすごいことですね。


髙野・天野: とにかく、続けていくことが大切と思っています。今日はどうもありがとうございました。


(*3)公益社団法人日本動物福祉協会HPhttps://www.jaws.or.jp/welfare01/welfare02/


前列左から:鈴木さん、堀江さん 

後列左から:天野、髙野


企業とのダイナミックな取り組みと、細やかな目配り。止まることなく次々に課題解決のための具体的な方法に切り込んでいくパワーに圧倒された。こうした「ルーフトップ」があれば、規模の小さい団体も安心してそれぞれの活動に注力できる、と力強さと希望を感じられる取材だった。

対談後、「クリステル・ヴィ・アンサンブル」さんには『petomoni(ペトモニ)』から寄付金をお渡しした。

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