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petomoni(ペトモニ)寄付取材 Vol.9

執筆者の写真: petomonipetomoni

更新日:1月17日

 なぎ犬猫ワクチン往診所

自分から治療に出向く往診専門「なぎ犬猫ワクチン往診所」 

すべての犬・猫に安心と健康を


なぎ犬猫ワクチン往診所の黄前鮎美(おうまえ)先生


犬や猫の健康を守るために、ユニークな取り組みを行っている「なぎ犬猫ワクチン往診所」(福岡県久留米市田主丸町)は、犬猫の予防・初期簡易治療専門の往診所だ。

同所の特徴は、飼い主に動物を連れてきてもらう診療ではなく、獣医自らが往診に出向くこと。

狂犬病予防注射や混合ワクチン接種をはじめ、風邪や嘔吐・下痢といった初期の簡易治療を、ペットが安心できる自宅で受けることができる。移動が難しい飼い主や、動物病院でのストレスに悩むペットたちにとって心強い存在と言えるだろう。


セカンドオピニオンの相談や終末期医療(ターミナルケア)の提供にも力を入れ、飼い主とペットの心に寄り添う姿勢が印象的だ。また、保護犬や保護猫のケアにも積極的に関わり、譲渡活動や避妊・去勢手術の推進を通じて、一匹でも多くの命を救うための活動を続けている。


「地域のペットたちの未来を守りたい」という強い思いが込められたこの取り組み。活動の背景にはどんな想いがあるのか、その詳細をうかがった。


なぎ犬猫ワクチン往診所」の取り組み


天野:本日はよろしくお願いします。早速ですが、「なぎ犬猫ワクチン往診所」を開院されたのはいつ頃ですか?


黄前先生:開院は4年前ですね。今が令和6年ですから、その頃になります。


天野:往診専門というスタイルを選ばれたのはなぜでしょうか?


黄前先生:正直、普通にやっても生き残れないなと思ったからです。動物病院はすでに飽和状態で、新規開業より閉院する病院の方が多いという話もありましたし、従来のスタイルでは難しいと感じました。

それに、勤めていた病院では保護団体やボランティアの方も来られていましたが、連れてくる頭数が多いと病院側も対応が大変ですし、他の患者さんの迷惑にもなってしまう。それなら、自分が動物のいる場所へ行けばいいと考えたんです。


天野:現在のスタッフ体制はどのようになっていますか?


黄前先生:現在は、私とサポートスタッフの2人で活動しています。


サポートスタッフの山口さん


訪問診療のメリット


天野:診療内容について教えてください。


黄前先生:主に予防医療ですね。狂犬病予防注射や混合ワクチン接種、あとは風邪や嘔吐、下痢といった初期の治療が中心です。福岡に来た時には、保護団体さんたちはすでにかかりつけの動物病院がある状態でした。その関係性を壊したくなかったので、詳しい検査や手術は従来の病院に任せ、私はその手前の段階を専門にしています。


天野:予防医療は最近、動物業界でも注目されていますよね。病気になる前に対策する、という流れで。


黄前先生:特に保護団体さんやボランティアさんは預かる頭数が多いので、予防をしっかり行えば病気を防げるし、余計な医療費も抑えられるんです。健康な状態で保護される子はほとんどいませんから、医療費は大きな負担になります。


高野:人間と同じですよね。


天野:なるほど。それ以外にも往診診療のメリットはありますか?


黄前先生:まず、飼い主さんの負担軽減ですね。例えば小さなお子さんや赤ちゃんがいるご家庭だと、病院に連れていくだけで大変ですし、周りに気を遣ってしまうこともあります。あとは高齢者の方です。車を運転できない、足が悪くて動物病院まで行けない、という声はよく聞きますね。動物目線ではストレス軽減が大きいです。病院に連れて行かれること自体がストレスですし、待合室で他の動物や人の声が苦手な子もいます。特に猫は敏感です。家ならいつもの環境で待てるし、治療が終わったらすぐに隠れられるので安心感が違います。


天野:終末期のケアもされているんですよね。


黄前先生:はい。特に終末期の子は、病院まで連れて行くのがかわいそうだと考える方が多いですね。慣れた家で看取ってあげたいという飼い主さんの気持ちはとてもよく分かります。大型犬や介護が必要な子だと、若い方でも移動が大変なので、往診は助かると言っていただけます。


天野:往診の需要は意外と多いんですね。飼い主さんも動物も負担が少ないし、必要とされているサービスだと改めて感じました。


高野:そうですね。従来の病院スタイルに加えて、訪問診療という形が今のニーズに合っていると思います。役割分担をうまくしていけば、診療と往診が共存して、より良い形が見えてくる気がしますね。


「猫はつんけんしているように見えて、実は感情表現豊かなんですよ」=黄前先生


保護活動と動物福祉の視点


天野:黄前先生は保護活動にも力を入れていらっしゃいますね。現在約70匹の猫ちゃんがいるとうかがいました。やはり「猫好き」から始まったのでしょうか?


黄前先生:そうですね。もともとは犬派だったのですが、動物病院に勤めるうちに猫の魅力に引き込まれていきました(笑)


天野:私も最初は犬から入りましたが、働くうちに猫の魅力に気付き今ではすっかり猫派です(笑)


黄前先生:犬は感情がストレートで分かりやすいですが、猫はツンケンしているように見えて実は豊かな感情表現を持っています。接するうちに甘えた視線を送ったり、優しい表情を見せてくれたりする瞬間に魅了されました。気づけば保護活動も猫中心になっていました。


天野:どのような活動をされているのでしょうか?


黄前先生:最初は久留米市の動物管理センターにボランティア登録し、収容された猫を引き出していました。しかし最近はセンターからの引き出し依頼が減ってきており、現在は多頭飼育崩壊(*1)からの保護が中心です。県外も含め20以上の団体と連携してお互いに助け合っています。


天野:どのような助け合いをしているのですか?


黄前先生:例えば、譲渡が難しい子や大変なケースがあると、別の団体が譲渡会に参加させてくれたり、送迎を申し出てくれたりします。フードや物資の支援も分けてもらうことがあります。私たちは病院の立場で支援を積極的には募り難いのですが、団体の皆さんが裏でサポートしてくださいます。


天野:素晴らしい関係ですね。支え合いがなければ、自滅してしまいますから。


高野:保護活動はお金や人手が不足しがちですが、チームとして支え合うことが必要です。志が高すぎて頑張りすぎると、続けるのが難しくなります。


黄前先生:すべての命を救うのは理想ですが、現実的には不可能です。どこで線引きをするかが重要で、感情だけで動くと活動が続かなくなります。


天野:価値観の違いもありますし、難しいところですね。


高野:「かわいそう」という気持ちが強すぎると冷静な判断ができなくなります。保護活動には「愛護」という言葉が使われますが、私は「動物福祉」という言葉の方が適切だと思っています。愛護は感情的すぎることがあるからです。


天野:そうですね。黄前先生のように医療的視点を持って活動されていることが非常に大切です。保護活動は人間と動物、両方が幸せでなければ成り立ちません。支え合いの輪が広がることを願っています。

(*1)ペットの数が増え、経済的にも破綻し、ペットの適正な飼育ができなくなった状況


往診と並行して保護猫活動も進める


そとねこさんの手術室」


天野:先生は「そとねこさんの手術室」という、野良猫の避妊去勢手術専門の活動をされています。手術車を使って現地で手術を行う、その活動の背景を教えてください。


黄前先生:活動自体は2023年7月に始まりました。当初は往診所の1階を手術室として使っていたんです。しかし、現地で手術をしてほしいという要望が徐々に増えてきました。特に、ボランティア団体や保護活動をしている方々からの依頼ですね。

そこで、自分のファミリーカーに機材を積んで、現地で手術をしはじめました。ただ、毎回の機材の積み下ろしがとても大変で、たまたま使用していない手術車があると聞いたので、すぐに譲っていただいたんです。2024年1月に手術車を導入して、それからはかなり負担が軽減しましたね。


天野:手術の全てがその車内で完結するんですか?


黄前先生:はい。手術を終えて、麻酔から目覚めるまで全てその車内で行います。


天野:どういった方の依頼が多いのでしょうか。


黄前先生:保護団体から、まとめて手術をしてほしいという依頼が多いです。通常の動物病院では1日に2〜3頭しか受け入れられないところを、私たちは手術車で移動しながらまとめて手術をすることができるので、その分対応できる頭数が増えました。


必要な機材が全て設置された車内


飼い主の高齢化と野良猫の保護


天野:先生が目下取り組まれている課題はありますか?

 

黄前先生: 飼い主の高齢化が進んでいて、病気での入院や施設への入居、孤独死などの理由で持ち込まれる保護動物がとても増えています。 

また、この辺りでは野良猫が非常に多くて、こうした方たちは善意から野良猫または犬を保護して、避妊・去勢手術をしないまま増えてしまうパターンが大半です。そしてこのような案件は結局、保護団体に流れて来てしまうんです。もちろん行政からの資金援助もありません。

行政と保護団体が連携をもう少しうまく取れたらいいんですが、それぞれの事情があってなかなか難しいなと感じています。

 

高野:先生のような獣医さんは、こうした連携に期待される役割が大きいと感じます。獣医さんは病院に常駐していますから、行政との信頼関係構築も容易です。例えばボクのような一般市民が行政に働きかけるよりも効果が期待できます。

 

黄前先生:保護団体も団体同士がもっと協力して連携できたら、もう少し違う状況になるのに、と思うこともあります。団体ごとの得意不得意もありますが、互いが苦手な部分を補完し合うことが大切です。結局、人間関係が一番難しいのかもしれません。


手術車にはTNR活動賛同事業者のステッカーがびっしりと貼られている


 今後の展望や目標


天野:今後の目標や展望をお聞かせください。


黄前先生:獣医師を志した時から目標にしているのは、犬猫の殺処分ゼロです。私が生きているうちに実現するかはわかりませんが、それを目指して獣医の道を選びました。私は「治療がしたい」わけではなく、殺処分ゼロを実現するための手段として獣医師の免許を取ったのです。


天野:珍しいパターンですね。最初から殺処分ゼロが目標だったんですね。


黄前先生:はい。犬は年々、殺処分が減少していますが、猫はまだまだ殺処分ゼロには程遠いのが現状です。少しでも早く、不幸に命を落とす動物を減らしたいと考えています。最終的には、私たちの往診所や保護団体もその役割を終えて引退することが理想です。


高野:引退して猫になりたいんですね(笑)


天野:保護団体がなくなるのが理想ですよね。


黄前先生:動物が人間の都合で処分されるからこそ、団体が必要です。誰もやりたいとは思っていません。特に代表者は、早く引退したいと考えている人が多いですね。


高野:獣医師になる前から殺処分ゼロを目指していたのは、どこから来た思いなのでしょうか?


黄前先生:小学5年生で初めて犬を飼ったことがきっかけです。私は一人っ子だったので、犬が兄弟姉妹のように感じ、助けられていることに気づきました。その後、動物に恩返しをしたいと思い、色々調べていく中で、殺処分が多いことを知りました。人の勝手で命を奪われる動物たちをなんとかしなければと思ったことが、今の活動に繋がっています。


高野:恩返しの気持ちから始まったんですね。


黄前先生:そうです。獣医師免許は国家資格であり、これからの活動の強みになると思って取得しました。


高野:獣医師免許があることで、できることの幅が全然違いますもん。


「実は名古屋出身なんです」=黄前先生


動物の殺処分ゼロに向けて


高野:殺処分ゼロを実現するためのステップは、どう描いていますか?


黄前先生:正直、全然描けていません。事情を知れば知るほど、どうすればいいのか余計にわからなくなります。


高野:蛇口を閉めるという話ですね。でも、野良猫がいっぱいいるのなら、それも難しい。


黄前先生:その通りです。私たちもTNR(*2)活動に力を入れていますが、結果がすぐに出るわけではないとみんなわかっているものの、なかなか思うような結果が出ていません。筑後市や八女市には、強力な保護団体があり、かなりの数のTNRを実施していますが、それでも子猫の数は増える一方です。


高野:それは地域住民が餌を与えるなど、日本独特の文化が影響しているんでしょうか。


黄前先生:そうかもしれません。助けるつもりで餌を与えることが、結果として増加の原因のひとつになっている。今では食べ物も残飯ではなく、市販のキャットフードが与えられることが多いので、野良猫の寿命が伸びていることも一因です。自然淘汰が減っていることが、猫の数を増やしていると感じます。


高野:人間の感情としては自然なことですが、そこで助けるべきかどうかという問題が浮かび上がります。


黄前先生:私は名古屋出身で、九州の状況を本州と比較すると九州はまだ昭和の名残が強く、保護団体活動が非常に厳しい状況です。特に雌猫は年々増え、手術が追いつかないという悪循環に陥っています。


高野:猫は1年にどれくらいの回数、出産するのでしょうか?


黄前先生:不妊手術をしていなければ、1匹の猫が1年に4回産むこともあります。春・夏・秋に産み、最近では冬にも産むことが増えています。


高野:そんなに!1回の出産で平均どれくらい子猫が生まれるのですか?


黄前先生:平均で5匹、場合によっては8匹産まれることもあります。


高野:避妊手術の費用はどれくらいかかりますか?


黄前先生:保護団体での手術費用は、メス猫の場合、大体1万円程度です。


高野:1年に4回産んだら、手術しない限りその後は何10匹も産まれることになりますね。


黄前先生:まさにその通りです。蛇口を閉めるというのは簡単に思えますが、実際には資金や体力的に非常に難しいことです。多頭飼育崩壊した飼い主さんたちは口を揃えて「こんなに早く増えるとは思わなかった」と言います。これは本当に驚くべきことです。


高野:長期的には「命の授業」を通じて、子どもたちに命の大切さを教えることが大切です。こうした教育が10年後、20年後に環境を変えるきっかけになるかもしれません。


黄前先生:若い世代への教育は本当に重要です。活動している人も年齢層が高いですし、もっと若い人たちが興味を持ってくれるといいのですが…。


高野:日本は今後、動物との関わりが大きな課題になってきます。野生動物との共存方法も考えなければならない時期です。


天野:これからどうしていくか、みんなで考えなければいけませんね。本日はお忙しい中、ありがとうございました。


(*2)TNR先行型地域猫活動。不妊治療などを行って野良猫や外猫の数を減らすことを目的としたボランティア活動。


黄前先生は早期の保護動物殺処分ゼロを目指し、今後も活動を続ける


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