petomoni(ペトモニ)寄付取材 Vol.10
- petomoni

- 3月16日
- 読了時間: 15分
WWFジャパン
動物が好きだからこそ考えたい、ペットと野生動物の境界線
動物は大好きだけど、人間と一緒に暮らしていて、本当にこの子は幸せなの?そう感じることはないだろうか。
ペットの多様化が進むなか、犬や猫に限らず、さまざまな動物を家庭で飼育するケースが増えている。アニマルカフェやエキゾチックアニマルのイベントなども含め、私たちは、改めてペットと人との関わり方を見直す必要に迫られているのではないか。
こうした思いからpetomoni(以下、ペトモニ)は、環境保全団体である公益財団法人世界自然保護基金ジャパン(東京・港区。以下、WWFジャパン)に取材を行った。
野生生物保全の現場では、ペット利用をどのように捉えているのか。動物に関心を持つことの意味や、その先にある課題、人と動物との距離感について、動物福祉の視点から、WWFジャパン・野生生物グループの若尾慶子さんに話を聞いた。
WWFジャパンは何をしている団体なのか

▲(左)WWFジャパン、若尾慶子さん
天野:
私たちは「ペットと共に生きる」をスローガンに、人と動物が幸せに共生できる社会の手助けをしたいという思いで、出張撮影会を中心に活動しています。さらに、そうした思いから今回は、株式会社スタジオタカノから 2025年10月28日に、20万円をWWFジャパンに寄付しました。
若尾:
ご寄付をいただきありがとうございます。うちの猫の写真も撮っていただこうかな。
高野:
ぜひ、連れてきてください。
一同:(笑)
天野:
早速ですが、WWFジャパン様の主な活動内容や、若尾様がご担当されている野生生物グループの取り組みについてお話を伺えますでしょうか。
若尾さん(以下敬称略):
はい。簡単にご紹介します。
こちらは、私たちWWFが各年発行している「生きている地球レポート2024(*1)」から抜粋したものです。生物多様性を指標化したもので、1970年を1とした場合、現在はおよそ73%減少しています。個体数そのものを示す数値ではありませんが、生物多様性が長期的に悪化し続けていることを示しています。

こうした現状を踏まえ、私たちは二つの大きな目標を掲げています。一つは、生物多様性を回復させること。もう一つは、気候変動対策として、2050年までに脱炭素社会を実現することです。
WWFジャパンは日本の団体ですが、活動は国内に限らず、世界各地で行っています。日本で暮らす私たちは、エネルギーや資源を海外に大きく依存しており、その分、世界に対して大きな環境負荷を残しています。そうした責任のある地域で課題解決に取り組むことも、私たちの重要な役割だと考えています。

近年よく耳にするSDGs(*2)についても、経済や社会の土台に「環境」があるという認識は、まだ十分に共有されていないと感じています。その考え方を視覚的に伝えているのが「ウェディングケーキモデル(*3)」です。
具体的な活動テーマとしては、気候変動、野生生物の生息地である森や海の保全持続可能な社会づくり、野生生物の保全の四つを柱にしています。

私の所属する野生生物グループでは、野生生物の生息地消失をなくすこと、違法・過剰な利用によって絶滅の危機にさらされる野生生物をゼロにすることを目標に活動しています。

南西諸島では、開発による生息地への影響が大きな課題となっていて、生息地消失をゼロにという目標の下で行なっている活動のひとつです。もうひとつの目標である違法・過剰な利用による野生動物への悪影響を止めるために、WWFジャパンでは企業への働きかけや規制、消費者の行動変容を促すキャンペーンなどを行っています。ペットに関わるプロジェクトもその一環です。

松本:
小学校でも、理科や総合の授業などでSDGsや環境問題は扱われますが、ウェディングケーキモデルは私も初めて見ました。17の目標を個別に学ぶことはあっても、それらがすべてつながっているという点までは、なかなか伝わりきっていなかったのかもしれません。大切な考え方ですが、まだ十分に知られていない印象があります。
若尾:
そうですね。私たちの伝え方にも課題があると思っています。どうすれば人の行動につながるのか、外部の方のお力も借りながら、今まさに試行錯誤している段階です。
(*1) 生きている地球レポートは、 地球の生物多様性の豊かさと健全性に、どのような傾向がみられるのかをまとめた、WWFが各年発行している報告書。
(*2)SDGs(持続可能な開発目標): 2030年までに持続可能でより良い世界を目指す国際目標で、17のゴールで構成される。
(*3)ウェディングケーキモデル: SDGsの17の目標を「生物圏(環境)」「社会」「経済」の3層に分類した構造モデル。一番下の土台に「環境」があり、その上に社会、さらにその上に経済が成り立つという関係性を視覚的に示している。
広がるペットの多様化と、エキゾチックアニマルをめぐる現状

若尾:
動物を取り巻く持続可能性を考えるうえで、まず知っていただきたいのが、エキゾチックアニマル(*4)のペット利用の現状です。撮影会の現場でも、犬や猫以外のペットが増えてきている印象はありませんか。
高野:
私たちは、飼い主の方が動物種を問わず家族として迎え入れているのであれば、その「今の幸せ」を記録しようという考えで撮影をしています。その結果、現場でも多様な動物種を目にする機会が増えました。

▲エキゾチックアニマル・イベントやアニマルカフェのリスクについて。出典:『再考すべき野生動物ペット利用のリスクと企業の責任』─ WWFジャパン、2022年
天野:
私自身も、ボールパイソンやヒョウモントカゲモドキを飼育しています。エキゾチックアニマルはイベントなどで販売される機会も多く、ペットとして迎えられる数は確実に増えていると感じます。会場では、爬虫類だけでなく猛禽類や、ビントロング(*5)のような動物を見かけたこともありました。
高野:
あれは正直、衝撃でしたね。
天野:
どんな動物なのか調べるうちに、「そもそも飼っていいのか」「どんな環境が必要なのか」「合法なのか」と疑問が次々と浮かびました。
高野:
会場の並べ方にも違和感がありました。非常に狭いスペースに入れられている動物も多く、動物にとって厳しい環境だと感じました。
若尾:
実際、パックのお惣菜のような容器で販売されているケースもあります。家庭で飼育できるのかどうか、十分に理解されないまま売買されている状況があります。

▲「飼育員さんだけが知っているあのペットのウラのカオ」より (https://www.wwf.or.jp/campaign/uranokao/index.html?animal=1)
天野:
以前、女子大生がコツメカワウソ(*6)を密輸しようとして摘発された事件もありましたよね。
若尾:
日本では高く売れるという理由で、密輸が行われたケースです。合法性やリスクが十分に認識されないまま、「売られているから買える」という状況が生まれていることに、私たちは強い課題感を持っています。
天野:
アニマルカフェも増えました。カワウソカフェやフクロウカフェ、最近では爬虫類カフェも見かけます。
高野:
海外では、日本のアニマルカフェについて、どう受け止められているのでしょうか。
若尾:
海外メディアではネガティブに報じられることが多いです。展示環境や感染症リスク、動物福祉の観点から、強い疑問が投げかけられています。
法整備や文化、動物福祉に関する意識の違いもあり、野生動物を利用したアニマルカフェは日本特有の、かなり珍しい存在だと言えます。
高野:
現状を見ると、何らかのルール作りは必要だと感じますね。

▲WWFジャパンのアニマルカフェ調査。野生動物とふれあうことで、さまざな感染リスクがあることがわかる。出典:『野生動物との触れ合いの現在地:野生動物を
扱うアニマルカフェのリスク緊急評価報告書』─ WWFジャパンのホームページより( https://www.wwf.or.jp/activities/lib/6068.html )。
(*4)エキゾチックアニマル: 】WWFジャパンでは、外国産や野生由来であることは関係なく、犬・猫以外の愛玩動物・コンパニオンアニマルを総称して「エキゾチックペット」と呼ぶ。また、エキゾチックペットはモルモットやウサギのような家畜化された動物(Domesticated animals)と野生動物(Wild animals)に大別。野生動物には、野生に暮らす動物を捕獲した個体と、飼育下で繁殖が行われているもののその歴史が浅く野生の性質を色濃く残している個体の両方を含むものとしている。
(*5)ビントロング: 東南アジアに生息するジャコウネコ科の大型の野生動物。本来は森林で暮らす動物だが、日本国内の販売イベント等で売買されている実態が報告されている。
(*6)コツメカワウソ: メディアやSNSの影響でペットとして人気が高まったが、本来は広い水場や新鮮な食事を必要とし、家庭での飼育難易度が極めて高い野生動物。密輸や絶滅リスクの増大から、現在はワシントン条約附属書Iに掲載され、国際的な商業取引が原則禁止されている。
『かわいい』だけでは成り立たない、ペット飼育の現実

天野:
日本の、しかも自宅という環境で、こうした動物たちが本当に幸せに暮らせる環境を整えられるのかは、正直、疑問を感じます。
若尾:WWFジャパンでは、エキゾチックアニマルの中に野生動物とdomesticated animalが含まれると考えています。野生動物をペット利用すること自体を、すべて否定したいわけではありません。ただ、何でも誰でも飼育できてしまう今の状況については、立ち止まって考える必要があると思っています。
まず大切なのは、どのようなリスクがあるのかを、関係者が正しく理解することです。購入する側だけでなく、販売する側も含めて、です。
さらに言えば、直接売買に関わっていなくても、業界の周辺にいる人たち、たとえばメディアや制度を作る立場の人たちにも、同じように理解してほしい。そのうえで、対応が必要かどうかを考え、必要であれば一緒に取り組んでいく。それが私たちのスタンスです。
高野:
ペットの対象となる動物は年々増えていますよね。多様な動物の飼育難易度を整理するような、判断材料はあるのでしょうか。
若尾:
そこで、私たちはできるだけ分かりやすく伝えるためのツールを作っています。


▲WWFジャパンが提起する5つのリスク(出典:『再考すべき野生動物ペット利用のリスクと企業の責任』─ WWFジャパン、2022年
WWFジャパンでは、「5つのリスク」(*7)という形で、ペットとして飼う際に想定されるリスクを整理しています。どの動物に、どのようなリスクがあるのかを、私たちなりの基準で総合的に評価し、「一度考えてみませんか」と問いかけるものです。
野生動物をペットに迎えるには飼育環境が適切であることが前提になります。家族として暮らしていくためには、その準備が欠かせません
松本:
海外でも、同じような取り組みは行われているのでしょうか。
若尾:
あります。私たちはWWFアメリカと共同で基準をつくり、その基準を用いて各種の動物のペット飼育に伴うリスクを評価した「エキゾチックペットガイド」というウェブサイトを作成しました。国や地域によって状況は異なりますが、判断の材料を示す試みは広がっています。

▲エキゾチックペットガイド(https://www.exoticpetguide.org/)
天野:
いまはYouTubeなどで、個人が飼育の様子を発信していますよね。そうした情報を見て「飼ってみたい」と思ってしまう気持ちは分かります。
コツメカワウソのように、見た目の可愛さから人気が出た動物もいますが、実際には特有の環境や条件が必要です。事前にそうした点を確認できるツールがあるのは、とても重要だと感じました。

▲エキゾチックペットガイドより。コツメカワウソの飼育には高いリスクが伴う
松本:
爬虫類の飼育でも、個人の試行錯誤が、そのまま正解のように広まっているケースを見かけます。
若尾:
SNSには良い面もありますが、根拠がはっきりしない情報が広がることもあります。私たちは国内外の専門家の意見を取り入れながら、情報を整理しています。
研究が十分でない動物が流通しているケースもあり、特にカワウソのような動物は、適切な環境を整えるには相当の準備と覚悟、そして資金や時間が必要だと思います。
(*7)5つのリスク: WWFジャパンが野生動物のペット利用に関して提唱しているリスク管理の枠組みで、「絶滅」「密輸」「感染症」「動物福祉」「外来種」の5項目を指す。これらのリスクは相互に複雑に絡み合っており、安易な飼育が深刻な問題を引き起こす要因となっている。
「飼う前に知る」動物たちの自然の生活環境

天野:
海外でも、エキゾチックアニマルのペット利用は増えてきているのでしょうか。
若尾:
はい。日本と同様に増えています。こちらは、先ほどご紹介したペットガイドのアメリカ版で、「レスポンシブルペットガイド」と呼んでいます。
高野:
国によって、ガイドに含まれる動物も変わるのですね。
若尾:
そうです。こうしたガイドが有効であれば、他の国にも展開できないかと考えています。
動物にはそれぞれの生態や習性があり、どう関わるのが適切かを一律に決めることはできません。ただ、少なくとも事前にその動物の特性を知ろうとする姿勢は大切だと思います。

▲「WWF Responsible Pet Guide」より。米国の状況にあわせて、日本とは異なる動物種を掲載する(https://www.worldwildlife.org/pages/wwf-responsible-pet-guide#species)
天野:
私も爬虫類を飼育していますが、一般的に爬虫類は年間を通じて温度や湿度の管理が欠かせず、飼育環境の維持には相応の負担が伴います。正直、簡単なことではありません。

若尾:
その点は、動物園の飼育員の方々であっても、日々苦労されている部分ですね。
天野:
WWFジャパンさんでは、井の頭自然文化園など動物園と連携した活動もされていますよね。そのような場所で、特に子どもたちが動物について知るきっかけが生まれるのは、とても意義があると感じました。
松本:
動物園は重要な役割を担っていますよね。専門家がいる環境だからこそ、その動物の特性や、適切な関わり方を考えながら伝えられていると思います。
若尾:
だからこそ、種を問わず、安易で衝動的なペット飼育は控えてほしいと考えています。
少なくとも「適切に飼えないものは飼育すべきではない」という認識が、少しずつでも広がっていくことを願っています。
「動物愛護」と「動物福祉」の違い

高野:
ペトモニでは、「動物愛護」と「動物福祉」は意識的に使い分けています。特に「動物福祉」という言葉は重視していて、感情と環境整備の違いだと捉えています。
若尾:
日本では、まだ「愛護」の考え方が強いと感じます。「福祉」が主流になってくれば、動物福祉の観点からエキゾチックアニマルの飼育は簡単ではない、という認識も広がっていくのではないでしょうか。
高野:
愛護の視点だと、「かわいそう」という感情が先に立ちやすいですよね。それ自体は理解できますが、社会全体でルールを作ろうとするときには、その感情が足かせになることもあると感じています。
そうした考えから、ペトモニの寄付活動も、動物福祉団体や動物医療の研究機関などへの寄付へと、少しずつシフトしてきました。最近は「福祉」という言葉を使った方が、建設的な対話がしやすいと感じています。

若尾:
私たちは環境保全団体なので、環境保全リスクや合法性、公衆衛生、外来種といった分野は比較的得意です。一方で、動物福祉の観点については現在、知見を広げている段階です。そのため、動物福祉を専門とする研究者の方々と連携しながら取り組む必要があります。
動物福祉の分野では、「動物福祉は科学だ」と言われることが多く、客観的な指標に基づいて評価されます。感情論に寄らず、ロジカルに考える姿勢が求められます。
松本:
犬や猫であればまだしも、エキゾチックアニマルまで対象が広がると、福祉に詳しい専門家の数は限られてきますよね。情報発信が追いつかない理由も、そこにありそうです。
高野:
ペットの多様化は、今後も進んでいくと思います。SNSなどを通じて情報はどんどん広がりますし、若い世代ほど新しいものを積極的に取り入れていきます。そうした中で、どうリテラシーを高めていくのかが重要な課題だと感じています。
若尾:
短期間で大きく変えるのは難しいですが、海外ではペットとして飼える動物を限定する「ホワイトリスト(*8)」を導入している国もあります。そうした取り組みの成果を注視しています。
本当は、規制ではなく、リテラシーの向上によって変わっていくのが理想です。喫煙を取り巻く環境が、時間をかけて大きく変わったように、動物を取り巻く意識も変わっていく可能性はあると思っています。
(*8)ホワイトリスト: ヨーロッパの一部などで導入されている制度で、「ペットとして飼育してよい動物」をリスト化し、それ以外の動物の飼育を原則禁止する仕組み。何でも誰でも買える現状に歯止めをかけ、野生動物を守るための強力な規制手法の一つとして注目されている。
動物が好きだからこそ、立ち止まって考える

天野:
こうした活動の中で、ポジティブに感じる面はありますか。
若尾:
たくさんあります。そもそも、生き物に興味がなければ、野生動物の保護や環境保全について考える人はいなくなってしまいます。だからこそ、生き物に関心を持ったり、触れたりすること自体は、とても大切なことだと思っています。
ただ、そのポジティブな感情が、深く考えないままペット利用につながってしまうとしたら、それは悲しいことでもあります。

天野:
今回の取材は、当初は断りのお返事をいただいていました。
若尾:
せっかくお声がけいただいたのに、申し訳ありませんでした。
WWFジャパンは、ペットを否定する団体ではありませんが、野生動物を積極的に飼育することを勧めているわけでもありません。
野生動物を含むペット飼育を推進しているように見える方々とご一緒することで、WWFジャパンが野生動物のペット利用を推奨していると誤解されることは避けたい、という思いがありました。
天野:
そこで私たちは、「動物種を問わず、家族として一緒に暮らしているのであれば、その幸せな瞬間を写真に残したい」という思いで撮影会を行っていること、また「動物との共生」というスローガンを掲げているからこそ、WWFジャパン様の活動に共感する部分も多く、今回ぜひお話をお伺いしたいとお伝えしました。
若尾:
ペトモニさんは、ペットや生き物が好きな方々と日常的に接していらっしゃいます。そうした方々からの発信であれば、私たちが直接伝えるのとは、また違った形でメッセージが届くのではないかと考え、取材をお受けすることにしました。

天野:
野生かペットかという区分も、人間が決めたものに過ぎません。今回のお話を通して、人と動物との距離感を考えることが、多くの課題につながっているのだと感じました。
若尾:
この記事を読んだペトモニのファンの方々にも、同じように考えるきっかけになってもらえれば嬉しいです。
天野:
最後に、WWFジャパンさんが大切にしていることを教えてください。
若尾:
どれほど動物が好きでも、必ずしもペットとして幸せにできるとは限らず、飼育することで意図せず人間の都合を押し付けてしまうことがあります。
だからこそ、特に野生動物については、適切な距離感を考え、その距離を保つことを大切にしてほしい。それが、私たちの目指しているところです。
天野:
本日のお話を、より多くの方に届けていきたいと思います。ありがとうございました。
若尾:
こちらこそ、ありがとうございました。




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