petomoni(ペトモニ)寄付取材 Vol.5 

更新日:8月30日

四国動物医療センター 入江充洋先生

クラウドファウンディングで目標資金達成

再生医療で後ろ足が動かない犬を助けたい


四国動物医療センター(香川県)センター長の入江充洋(いりえみつひろ)さんは、今年5月、事故などで脊髄を損傷し後ろ足が動かなくなった犬の治療法を確立するためにクラウドファンディングを活用して支援金を募り、プロジェクトを成立させた。


医療従事者が直接立ち上げたクラウドファウンディングに興味を持ったスタジオタカノ代表の髙野と、petomoniディレクターの天野が、入江先生に直接話しを聞いた。


四国動物医療センターについて


天野:四国動物医療センターは、入江先生が始められたんですね。


入江先生(以下、敬称略):1993年12月に犬・猫専門の動物病院として、香川県で開業しました。


天野: こちらの病院の特徴は、どのようなところでしょうか。


入江:いわゆる町の動物病院的な一次診療と、より高度な医療を行う二次診療の施設を併設しています。通常は一次診療施設の紹介がないと二次診療施設での診療は受けられませんが、当院ではワンストップで受けられますから、総合病院のような感じですね。私は腫瘍や集中治療、副センター長は目と口腔外科が得意分野ですが、その他、神経や外科、循環器、皮膚、歯の専門家などにも来ていただいて診療しています。


髙野:獣医師さんは人間のお医者さんと違って、基本的には一人で全部を診るんですよね。そこが凄いですね。


入江:そうなんです。したがって広く浅く診療する動物病院が多いですね。先生によって苦手な分野があると思います。その場合は得意な病院を紹介したりもします.


天野:町の動物病院だと、重症の場合は紹介状を書いてもらって専門医のいる大きな病院を受診することになり、飼い主としては不安が大きいです。四国動物医療センターさんは、いつもの病院でしっかりと治療までできるので、すごく安心感がありますね。


髙野:こちらの獣医の皆さんは、どのようなスケジュールで一日のお仕事をされているんですか。


入江:これまでは、午前中の9時〜12時までは病院で診察をして、昼食をとった後に手術や検査をし、16時〜19時まで夜の診察をするといった流れでした。しかし、午後の手術の準備などでお昼休みも取れないことが多かったので、最近は平日の午後は手術や検査の時間に充て、夜の診察は無くしています。


髙野:獣医さんも人間ですから。きちんと能力が発揮できるように、健康を守るための調整は必須だと思います。


四国動物医療センター(香川県)センター長の入江充洋(いりえみつひろ)先生


神経を再生する「NEcST 細胞」とは


天野:先生が研究されている「NEcST(ネクスト) 細胞」とはどんな細胞で、研究するきっかけを教えて下さい。


入江:私は医師の先生方といくつかの共同研究をしています。ある医師から中西教授を紹介していただき「ネズミで効果を確認したNEcST細胞を、犬の神経損傷で治験をしませんか?」とお声掛けいただいたのが、研究に関わったのがきっかけです。

NEcST細胞は、中西徹(なかにしとおる)教授が発見した幹細胞です。中西教授はベンチャー企業であるリジェネフォーティー株式会社を設立して研究活動をされており、今回この会社と当センター共同でのクラウドファウンディングをおこないました。

さて、幹細胞についてご説明いたします。幹細胞とは細胞の赤ちゃんみたいなものです。ノーベル賞で有明であるIPS細胞も幹細胞の一つです、赤ちゃんが成長して大人になって様々な職業に就く様に,幹細胞も成長して様々な細胞になることができます。

NEcST細胞はIPS細胞に非常によく似ていますが、神経に特化して成長する特性があります。中でも最大の特徴は、NEcST細胞が増殖するときに出すエキスが、壊れた神経を治す働きがあります。


天野:交通事故などで脊髄を損傷し、後ろ足が動かなくなってしまった動物の運動機能が回復すると聞いています。


入江:はい。ネズミの研究では画期的な効果がみられています。脊髄損傷で歩行が出来なくなる犬は、多く存在します。脊髄を損傷してしまうと、麻痺した筋肉がどんどん痩せてしまいます。痩せ過ぎると筋肉を動かす機能が元に戻らなくなるため、NEcST細胞を投与するタイミングが重要になります。本来ならば動かなくなる症例でも、NEcST細胞の効果で機能を回復させてあげれば、筋肉がダメになる前に治療を始めることができると期待しています。


天野:治験では、どのような効果が期待されていますか。


入江:ご家族のご希望は、後ろ足の立たない犬が「立てるようになる」ことだと思います。これが最終目標であることは間違いありませんが、「おしっこが少し我慢できるようになった」といった回復でも大きな効果だと思います。

また、外傷による脊髄損傷だけでなく、ウェルシュコーギーやシェパードなどの犬種では、遺伝的に脊髄が進行性でダメになってしまう病気があります。後ろ足から前足へと次第に動かなくなり、最終的に呼吸困難になって死に至ります。これは遺伝子検査でどの犬に発症するかがほぼわかりますので、それらをチェックして事前にNEcST細胞を投与して発症を抑えられないかと考えています。あくまでも希望ですが、NEcST細胞が持つ神経細胞の修復など、IPS細胞にはない作用にも期待しています。


髙野:ちなみに脊髄損傷はどういったケースで起こるものですか?


入江:人で最も多いのは落下や交通事故などの外傷です。犬は外傷に加えて、椎間板ヘルニアが原因の多くに挙げられます。椎間板ヘルニアはほとんどの場合手術で完治しますが、稀に症状が重いケースでは脊髄損傷につながることがあります。他には腫瘍や、血管が詰まることによる脊髄の梗塞(こうそく)などがあります。


髙野:胴長の子はヘルニアになると聞きます。あの子たちは腰が辛そうですよね。そこが可愛いんですけど、ソファーにも上がれないし、降りるときも腰を痛めてしまいそうです。


天野:飼い主さんは、ひやひやしますよね。


愛犬の後ろ足が動かない家族の苦労とは


天野:後ろ足が動かない犬を持つご家族の一番大きなご苦労はどんなところでしょうか。


入江:一番大変なのは排便・排尿です。後ろ足が麻痺した犬は自分で排便・排尿をコントロールできないケースが多く、垂れ流しの状態になってしまいます。オムツの着脱や床の清掃も必要になりますし、健康な犬より便や尿が皮膚に付着して汚れる頻度も多くなります。洗ってあげる手間も増えます。ご家族の介護が絶対に必要になるので、負担はとても大きいと思います。


天野:年老いたという理由ではなく、突然介護が必要になった飼い主の絶望感はとても大きいと思います。それまでの生活が一瞬で変化してしまう。ご家族はどうやって気持ちを整理されているんでしょうか。


入江:幸いなことに、実はワンちゃんは人ほど落ち込まないんです。人だと下半身が麻痺して車いす生活になってしまったら、その落ち込みはかなりのものだと思います。でも、ワンちゃんは痛みをとってあげると前半身だけでもまあまあご機嫌で、楽しそうにしています。ご家族の辛さは変わりませんが、その姿には救われるみたいです。


髙野:それは救われますね。人間だと気疲れして滅入る場合もありますし、介護する方も辛いですもんね。


入江:犬は末期がんなどで安楽死に至るケースも多く経験しますが、下半身のトラブルの場合は、それが少ないと感じます。後ろ足の麻痺になっても、明るく元気にしている犬の姿が、ご家族を「最後まで介護していこう」という気持ちにさせているのではないでしょうか。


天野:ご家族は落ち込んでも、動物たちの元気な姿を見ると立ち直れるんですね。


クラウドファウンディングへの挑戦


髙野:NEcST細胞は、いままでどうすることも出来なかった脊髄損傷の治療にとって明るい兆しですね。


入江:どのタイミングで、どれくらい投与するかなど、まだまだ課題は多いです。NEcST細胞投与の治験について費用は一切頂いていません。患者さんにはあくまでも研究に協力して頂いているという認識です。ただ、細胞の培養に多くの費用が掛かります。現在、岡山県のベンチャー企業で培養を行っていますが、その資金に充てるため、READYFOR(レディーフォー)というサイトでクラウドファウンディングを立ち上げ、支援を募りました。


髙野:いままで、僕も含めた一般人は、研究に対して少し距離感を感じていたと思います。今回の企画は、医師や研究者の方から「一緒に研究しよう」と、手を差し伸べてくれている感じがして、研究への参加が身近になった気がします。実際の立ち上げにはどんな苦労がありましたか。


入江:クラウドファンディングは初めての経験で、右も左も分からない状態でした。立ち上げたはよいが、そもそも研究内容を周知する方法も分かっておらず、なかなか資金が集まらない状況でした。さまざまな方に相談して、やはりメディアを上手く使ってアピールする必要性を痛感しました。そこで積極的にラジオなどに出演し、後半、徐々に認知度が上がって資金が集まり出しました。おかげで無事に目標を達成することができて、ほっとしています。何人かの知人に「もっと早く言ってよ」と言われました。


一同:笑い。


髙野:支援者が後半に伸びたというお話しは、潜在的な関心度の高さを示していますよね。 入江:研究者の多くは、研究に費やすお金がなく困っています。ですから今回の成功は後続の研究者に勇気を与えたのではないかと自負しています。


髙野: petomoniとしても、医療関係者の方に寄付をするのは初めてのことです。こうした未来のための研究に協力ができて、とても嬉しく思います。


先生にとっての動物とは


髙野:私は常々、犬との関わり合いが、自分の生活を豊かにしていると思っています。自分が穏やかな心であれば、周りの人も穏やかになっていく──。犬の純粋な心は、人の心の形成に大きく寄与すると感じています。先生にとって動物とは何でしょうか。


入江:一言でいうと「動物は偉大」ですよね。犬や猫がいると、夫婦の会話が増える、子どもの成長に良い影響を与える、笑わない人が笑顔になる、疾患を持った方があきらめていた治療を頑張り、健康長寿などなどさまざまな効果があります。私が飼っているプードルは、私が自宅に帰ると、30分ぐらいずっとテンション高く迎えてくれます。人間はしませんよね、一切。こうしたやり取りが人の心に癒しを与えてくれる動物の偉大さだと思います。

一方で、動物は嘘をつかないと言われますが、私たち獣医師から見ると実は動物はついちゃうんですよ、嘘を。まあ嘘というか、自分の痛みや症状を隠しちゃうんですね。飼い主さんにも訴えないケースが多いので、いつもと違う、じっとしているなどの痛みのメッセージに気を付けていただきたいです。


天野:最近ではセラピードッグなどの活動もよく耳にするようになりました。


入江:なぜ人が犬に癒されるのかは科学的に解明されていて、お母さんが赤ちゃんを抱っこしたときと同じホルモンが出るためとわかっています。しかし猫は分かっていないです。猫も間違いなく癒されると思いますが、ホルモンは出ないようです。知人で猫を研究している先生は、「(癒されるのは)可愛いからでしょ」と、学者らしからぬ答えで結論付けていましたが、それくらい謎です。


動物医療についての今後の課題


髙野:まだまだ色々とお話を伺いたいところですが最後に、動物医療に関して今後どのような課題があるとお考えですか。


入江: NEcST細胞に限らず、多くの研究者がさまざまな研究をしています。まずはそれらをもっと多くの方に知っていただく必要性を感じます。メディアやインターネットでの情報発信はもちろん、今回のクラウドファンディングのようにご支援いただく方法を工夫するなど、多方向にチャネルを開く努力が必要です。

また医学については、先ほどセラピードックのお話がありましたが、人間の病院に動物を連れて行くには非常に大きなハードルがあります。細菌や病原菌の持ち込みなどが不安視され、病院に入れないことも珍しくありません。一方で犬の持つセラピー効果は絶大で、治療に前向きになるなど、患者さんに与える影響ははかり知れません。私たち獣医師が、こうしたメリットをしっかりと医師や皆さんに伝え、このような状況を少しでも改善していきたいと思っています。


髙野・天野:とても勉強になりました。本日はお忙しい中ありがとうございました!

左から天野、入江先生、髙野


対談後、『petomoni(ペトモニ)』から寄付金をお渡しした。


閲覧数:92回0件のコメント

最新記事

すべて表示